サワラという名前
サワラは漢字にすると、魚へんに春と書いて「鰆」と書きます。この鰆という漢字はサワラが春先に多く収穫されることを表していて、サワラは春の季語とされています。このため一般的には、サワラは春が旬の魚だと思う人も多いでしょう。ですが関東地方では、10月から次の年の3月までの寒い時期もサワラは旬であるとされています。
ちなみにサワラという名前の語源ですが、実は「鰆」という漢字にはあまり関係がありません。サワラの腹の幅が狭いため、「狭い腹」や「狭腹」と呼ばれていたことからサワラと呼ばれるようになったそうです。ちなみに、石川県の方では、サワラという呼び名はカジキを意味します。たしかに、魚は出世魚の成長度合いや、それぞれの地方によって呼び名が違うものです。しかし大型になると4メートル以上になるカジキが、サワラと呼ばれているのは非常に興味深いです。
出世魚 サワラ
魚の中には、成長すると名前が変わるものがいます。ブリなどに代表される出世魚と呼ばれる種類の魚ですね。サワラも出世魚の一種で、50cmほどに成長したのが「サゴシ」、それを超えたものが「ナギ」、そして体長が60cm以上になったものを「サワラ」と呼びます。出世魚には細かく名前が変わっていくものがいますが、サワラは60cmを超えると出世がとまってしまう魚のようです。
ちなみにサワラには、産卵の時期になるととても鋭い顔つきになるという特徴があります。実際に産卵の時期のサワラを見てみると、それ以外のサワラと比べカラダ全体が鋭く、まるで刀のような風貌になっていることがわかります。
サワラは稚魚から貪欲な魚?
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体長の最大の記録は115cmにもなるサワラは、「狭腹」という漢字が使われるほど細いですが、実は非常に貪欲な魚です。サワラの口はとても大きくで鋭い歯を持っており、カタクチイワシなどの魚を食べています。これは大人のサワラだけでなく、稚魚のサワラも鋭い歯を持っているのです。
春から夏にかけてがサワラの繁殖期であり、その期間に何度も産卵をします。そして生まれた仔魚(しぎょ)は、大人のサラワと同じように鋭い歯を持っていて、自分と同じサイズの魚も捕食できるといわれています。仔魚の頃から鋭利な歯でほかの魚を食べてしまうサワラは、たった一年間で50cm程度にまで成長します。
そんなサワラは気温が高い時期だけ成長して、冬の寒い時期にはあまり成長しません。
サワラは貪欲だけどデリケートな魚です
サワラは生まれた頃から鋭利な歯を持っていますが、実はとてもデリケートな一面を持っています。
一般的に「漁業」といえば、網で大量の魚を獲っている様子を思い浮かべるものです。しかし、この方法でサワラを捕まえようとするのは問題があります。なぜなら、サワラは網にかかるとすぐに死んでしまうからです。
香川県でのサワラは「グッテリ」と呼ばれています。サワラは釣り上げたばかりのときは元気良く暴れるが、すぐに弱々しくなって死んでしまうことが、サワラが「グッテリ」と名付けられた理由といわれています。貪欲に獲物に喰らいつくような魚なのですが、元気がありすぎて逆に体力を一気に持っていかれてしまうのでしょう。
しかし、サワラに体力がないのか? というと、そうではありません。サワラが泳ぐスピードは時速100kmといわれています。これだけ速く泳げるサワラに、体力がないとは考えにくいですね。暴れて体力がなくなってしまうのではなく、大きい身体でも実はかなり脆い(もろい)のかもしれません。こういった理由から、漁で水揚げされたサワラは生きたまま提供されることも難しいようで、サワラの活け作りは滅多に食べられないといわれています。
(Photo by yamakk, Micromesistius)